賃金債権放棄の有効性

【ご相談内容】
先日採用したばかりの従業員から、入社して3日目に退職の申し出がありました。
その際、今回の給与は支払ってもらわなくて構わないので、即日退社したいとも言われました。
このような申し出を受けて、給与を支払わなくてもよいのでしょうか?

【私からの回答】
本件の場合、従業員からの賃金債権の放棄の意思表示と解されます。
一般的に、債権は、債権者から放棄することが認められています。
しかし、賃金債権の放棄については、労働基準法24条第1項に定められている「賃金の全額払いの原則」との関係で問題となります。

賃金の全額払いの原則は、賃金が、労働者の生活を支える重要な財源であり、日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにする必要があるため、規定されているものです。

この点、過去の裁判例では、「労働者の自由な意思に基づくものであることが明確であり、自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在するとき」に限り、賃金債権の放棄は有効になると判示しています(最判昭和48年1月19日)。

この自由な意思に基づくものであるかどうかの判断基準については、
「放棄が、使用者から抑圧を受けたものではなく、真に自由な意思によるものであると認めるにあたっては、それによって、当該労働者がいかなる事実上、法律上の利益を得たものであるのかなど、労働者がその権利を放棄するにつき合理的な事情の存在したことが明らかにせられなければならない」
と示されています(色川裁判官反対意見)。

過去の裁判例では、具体的な考慮要素としては、以下の点が検討されています。
①放棄の表示方法
労働者の自由な意思が「明確」にあらわれている、とされるためには、書面で放棄していることが重要な要素として考慮されている。
②放棄の時期
使用者と労働者という支配的な関係から脱したと認められれば、放棄の有効性が認められやすい。
しかだって、在職中か、退職直後か、退職から数ヶ月経過した後か、によって判断は異なってくる。
③放棄を申し出たのはどちらからか
放棄に至った経緯も重要である。賃金債権
の放棄については、通常、労働者にとって消滅させられるべき自己の債務がなく、失うのみで得るところがないため、多くは使用者側からの申し出であるが、それ故に、労働者側からの申し出であれば、放棄の有効性が認められる可能性が高まる。

以上を前提に、本件を考えた時、賃金債権の放棄が、労働者の自由な意思に基づいて行われたことを明確にするために、まずは書面で放棄の意思表示を残しておくべきです。
その上で、今回のケースでは、放棄の時期は退職直後であり、さらに放棄の申出は、労働者側からなされたものであるため、放棄は有効に認められる可能性が高いため、使用者側は放棄の申出を受け入れて、給与の支払いをしなくても問題にならないと考えます。


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フロネーシス社会保険労務士法人
社会保険労務士 池原伸
電話 06-6777-8610
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