従業員が勤務できなかった場合の給与の取扱いについて

【ご相談内容】
 当社では、従業員が台風や大雨で勤務できなった場合や、交通機関の運休による遅刻や欠勤した場合の給与の支払いについてのルールが曖昧です。
 どのように対応するのが正解なのでしょうか?

【私からの回答】
 雇用契約は、労働者は労務の提供し、それに対して使用者は賃金を支払うことを約束することで成立する契約です(民法623条)。そして、この労働者からの賃金請求権は、労務を提供した後でなければ発生しないと定められています(民法624条1項)。
 ということは、労務が提供されなければ、労働者の賃金請求権は発生しないということになります。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」といいます。
 とはいえ、労働者に責任のない事情でやむなく労務が提供できなった場合でも、このノーワーク・ノーペイが妥当するでしょうか?
 今回は、3つのケースに分けて賃金支払いの必要性について整理してみたいと思います。

①労働者の側に責任のある事情のより労務が提供できなった場合
(例)自己や家族の病気を理由に欠勤した場合
 この場合、民法の原則通り、ノーワーク・ノーペイの原則が妥当し、労務が提供されていない以上、賃金請求権は発生しないため、賃金の支払いは必要ないことになります。月給であれば、勤務しなかった日の賃金は控除できると考えることができます。尚、この場合、不就労日の賃金は控除される旨を給与規程などの社内規程に明記しておくことが望ましいでしょう。

②使用者の側に責任のある事情により労務が提供できなった場合
(例)受注量の減少や原材料の不足、監督官庁の勧告による操業停止により休業した場合
 この場合は、労働者は労務の提供をしていませんが、労働者に落ち度はありませんので、賃金請求権が満額発生することになります(民法536条2項)。
 この点、労働基準法では、このような場合の対応について規定を設けており、使用者は、使用者に責任がある事情による休業については、労働者にその平均賃金の100分の60以上の手当(休業手当)を支払わなければならないと定めています(労働基準法26条)。
 つまり労働基準法は、民法の特別法という位置づけですので、民法上では100%の賃金請求権が発生するべきところ、労働基準法で平均賃金の100分の60以上支払えば良いと修正されていると考えることができます。

③労働者・使用者ともに責任のない事情(不可抗力)により労務が提供できなった場合
(例)停電や震災により工場が稼働できない場合
 この場合、労務の提供ができなかったことについて労働者に落ち度はありませんが、使用者にも落ち度はありません。このような場合については、民法には危険負担の規定が設けられています。
 危険負担とは、一方が労務を提供し、他方が賃金を支払うというように契約者双方がそれぞれ債務を負う契約において、一方の債務者の落ち度がなく債務が履行できなくなった場合に、他方の債務は尚履行しなければならないかどうかという問題です。
 この点、民法536条1項では、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない」と定めており、賃金請求権は発生しないことになります。

 さて、ご質問のケースで言うと、台風や大雨で勤務ができなかった場合や交通機関の運休による欠勤はどうなるのかという問題ですが、台風や大雨で工場が浸水して稼働できなくなったという場合は、上記③に該当します。この場合、賃金は発生しません。
 しかしながら、従業員が住んでいる地域が大雨により川が氾濫して駅に行けなくなったとか、特定の従業員が居住している地域のみ運休している場合は、会社自体は営業しており、会社の近くに住んでいる従業員は通常通り勤務しているわけですから、労働者は、他の交通手段を用いて会社へ来て労務を提供する義務があると言えます。従って、このような場合に欠勤すれば①に該当し、会社は賃金を支払う必要はありません。
 少しややこしいのが、大型台風が接近しているので、従業員や店舗の利用者の安全を考慮して、明日の営業はしないと会社が決めた場合です。この場合は、外的な要因として台風は影響しているのですが、台風の風雨によって会社が営業できなくなったわけではなく、会社の都合で休業することを決定しているとも考えられます。このような場合は、上記の分類でいえば②に該当しますので、賃金を支払う必要があることになります。ただ、このような場合には、事前に会社が有給休暇の時季指定を行う、労働日を他の休日と振り替える、といった方法を採ることにより休業手当の支払いを回避することも可能と考えられます。

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フロネーシス社会保険労務士法人
社会保険労務士 池原伸
電話 06-6777-8610
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