従業員が社外の人に損害を与えた場合の会社の責任

【相談内容】
卸売業を営むA社の繊維事業部に所属する従業員Bが、以前から取引のあるC社に対して、繊維の架空の商取引を持ちかけ、手付金として300万円を受取った。Bはその後退職し、音信不通となってしまった。
A社はBが受け取った手付金をCに返還しなければならないか。

【私の回答】
民法715条1項は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定しています。

この規定は、報償責任と危険責任という2つの考え方に基づくものとされています。
報償責任とは、会社が従業員を使用して利益を得ている以上、その事業から生じたリスクは利益を得ている会社が負担すべきであるという考え方です。
危険責任とは、会社が従業員を使用して事業を展開することでその事業から生じる危険は拡大しており、会社はその危険の管理者として責任を負担すべきという考え方です。

このような考え方から規定された使用者責任の規定が認められるためには3つの要件が必要です。
①会社と従業員の間で使用関係があること
②損害を生じさせた行為が従業員が行った事業に関する行為であること(事業執行性)
③従業員の行為によって第三者に損害が生じたこと

ここでしばしば問題となるのが②の要件です。
つまり、どのような行為までを事業に関連する行為と認定できるかが問題となります。
その判断基準としては
(イ)会社が行う事業の範囲に属する行為であること
かつ
(ロ)損害を生じさせた従業員が担当する職務の範囲内であること
が必要であるとされています。

(イ)については、現に会社が行っている事業だけに限らず、過去に行っていた事業や現に行っている事業と密接に関連する行為まで広く含むと解釈されていますので、緩やかに認められます。
他方で、(ロ)の職務の範囲内については、平成22年3月30日に最高裁判例が出されました。

本判例では、「事業の執行についてされたものであるというためには…(損害を生じさせた行為)が使用者である…(会社)の事業の範囲に属するというだけでなく,これが客観的,外形的にみて…(損害を生じさせた従業員)が担当する職務の範囲に属するものでなければならない。」
とされ、上記の(イ)(ロ)の2段階で判断することを明示した上で、職務の範囲に属するか否かは客観的・外形的にみて職務の範囲内であると判断されなければならないとしています。

この客観的・外形的にみるとは、平たく言うと、実際にその従業員が担当する職務ではなかったとしても、一般の人がが外から見ればその従業員の職務だと思えるものであればOKということです。
とはいえ、被害者がその従業員が職務外の行為をしていることを知っていた場合には、たとえ一般人から見て職務の範囲内と思える行為であっても認められませんので、注意が必要です(最判昭42年11月2日参照)。

本件でBが行った売買契約は、卸売業であるA社が行う事業行為に属する行為であり(イ)は満たすと考えらます。
また、Bは繊維事業部に所属しており、繊維の売買契約を行うことは、一般人から見て通常Bの職務の範囲に属すると見えるため、(ロ)も満たすと考えらます。

よって、本件では、C社からの損害賠償については、A社がその責任を負担しなければならないと思われます。

本件では損害を生じさせた行為はたまたまBの職務の範囲内での行為でしたが、一般には担当する職務の範囲外の行為を会社に無断で行い、外形上職務の範囲内と判断され、その損害を会社が負担しなければならなくなるケースが多くあります。
このような事態を避けるためにも、会社は従業員が担当する職務の範囲を明確にし、職務外の行為を会社に無断ですることができないようにする社内制度の構築が重要だと思います。

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SR人事労務総合研究所
社会保険労務士 池原伸
電話 06-7652-9289
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